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【 声優警察 番外編 】
| 『クイーンズブレイド~もう一つの物語~』 エピソード03「シャムとレイナと愛玩獣」 |
| 2010年 2月 17日(水曜日) |
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■エピソード03『シャムとレイナと愛玩獣』 「さすがは、ヴァンス伯爵。無駄に広いな」 ――勝手に入り込んでいる人間には、言われたくないだろうけど。 そう思いつつ、シャムはつぶやいた。 一流の美闘士を目指す修行(要は、誰かに無理やり勝負を挑むこと)のため、より強い相手を求めて、今日はヴァンス伯爵の領地に忍び込んでみたのだが…… 「これは、あてがはずれたかな」 広大な伯爵領には(シャムもそうだが)侵入者が絶えず、警備も厳しいと、聞いていた。だが、このあたりは辺境になるせいか、ここまで誰とも出会っていない。それを残念に思う反面、ほっとする自分もいる。戦いの経験は積んできているとはいえ、いつもと違う環境で、少し緊張していたらしい。シャムは眼帯に手をやり、気分を落ち着かせた。 「…でも、私もやればできるんだな」 数は少ないとはいえ、このところは連勝中だ。自分なりの戦い方、というのも徐々につかめてきている気がする。勝利の味を思い出し、シャムは微笑む。 「まあ、最初は負けたけれど……」 最初の勝負のことは、よく覚えていない。何せ一瞬で負けた。挑んだ相手の顔も覚えていないのは、自分でもどうかと思うが、これは手に入れたばかりの魔導具の影響で、妙に興奮していせいだと、シャムは己を慰めた。 「だけど、負けて良かったのかも」 これは、負け惜しみではない。敗北はシャムに大切なことを教えてくれた。すなわち"勝てない勝負はしない"。情けなく聞こえるが、自分と相手の力量を知るのは、勝負の基本である。今日、伯爵領に入り込んだのも、無謀ではなく、今の自分なら十分勝算アリ、と考えたのだが…… 「誰にも会わないんじゃね」 シャムは、普段活動の拠点としている峠に戻ろうかと迷いはじめた。だが"凶悪な奴が人を襲う"という噂が広まり、峠を通る者は少なくなっている。結果としては伯爵領に来ても状況は変わらなかったのだが。 「そんなに派手にやってるかな?」 ――無責任な噂は困りものだ。 シャムがため息をついた、その時…… 「!」 ほど近い茂みが揺れる。さらに、こちらをうかがう気配がはっきりと伝わってくる。 シャムはゆっくりと剣を構えた。眼帯の力が、戦いに向けて、気分を高揚させていく。 「ヴァンス伯の飼い犬かしら? さあ、誰でも来なさい!」 虎が飛びかかってきた。 「お父様の領地って、無駄に広いのよね」 ――そこから逃げ出そうとしている娘には、言われたくないだろうけど。 そう思いつつ、レイナはつぶやいた。 冒険への旅立ちーといえば美しいが、要は家出のことーのため、人目を忍びつつ、領地の外を目指しているのだが…… 「こちらは、当たりのようね」 広大な伯爵領には侵入者が絶えず、警備の目も厳しい。だが、このあたりは重要度が低いせいか、ここまで誰とも出会っていない。ほっとする反面、油断は禁物と自分に言い聞かせる。腰の剣の感触を確かめ、レイナは気を引き締めた。 「…でも、私もやればできるんだな」 これだけ何度も家出を繰り返せば、さすがにいろいろと学習する。これまでの失敗の数々を思い出し、レイナは苦笑する。 「問題は、エリナだけど……」 エリナに連れ戻された日々は、正直思い出したくない。何せ一度も出し抜けたことはない。姉としてどうかと思う。まあ、いろいろと裏をかくやり方に自分は向いていないだけだと、レイナは己を慰めた。 「だけど、今日は大丈夫」 逃げ出しては連れ戻される日々は、レイナに大切なことを教えてくれた。すなわち“エリナと勝負はしない”。情けなく聞こえるが、大切なのは、妹との決着ではなく、いち早く外の世界にでることである。今エリナは、父の命で、伯爵家主催の舞踏会の準備にあたっている。忙しさで、他に気を回す余裕はないはず、十分勝算アリである。 「舞踏会にも出ずにすむし、一石二鳥ね」 とりあえずの目的地は、この先にある、通称“白骨峠”である。そこでは今、何人もの旅人が襲われているらしい……見回り兵の動向を探った際に聞いた情報だ。その噂の真偽を確かめることも、レイナが今回家を出た理由の一つである。「本当なら、何とかしないと」 持ち前の正義感で、レイナは決意した。だが、万一の戦いに備えるためにも、今日はこのあたりで休んでおくべきか……彼女がそう考え始めた時だった。 「!」 前方の茂みが揺れる。何かが争う気配、さらに、弱々しいが、女性の叫びも聞こえる。 ――誰かが襲われてる? まさか噂の!? レイナは、剣を構え、茂みに駆け寄った。 虎と、涙目の少女がそこにいた。 騒動のもとの虎を追い払った後、レイナは少女を気づかった。 「大丈夫?」 「……」 無言。襲われたという衝撃、そこから解放されたという安心感、どちらかあるいは両方かもしれないが、やや放心状態にあるようだ。 ――ここで、虎に出会うとは思わないわよね。 レイナは同情した。そもそも、この少女が、なぜ伯爵領に入り込んでいるのか等々、疑問に思う点はあるのだが、まずは落ち着かせてあげることが必要だろう。レイナが改めて言葉をかけようとした時……、 「あんた強いね」 「……」 つぶやくように発したものではあったが、明らかに尊敬の念がこもった響き。その言葉に、今度はレイナが沈黙する。 ――エリナも、飼ってるものの管理は、ちゃんとしなさいよね! あの虎は、実はエリナのペットだ。やんちゃだが、レイナにも懐いており、命令もよく聞く。それを知らない者から見れば、レイナが猛獣を一喝で追い払ったように見える。見えるのだが…… 「……」 「……」 そんな感謝の目で見ないで欲しい。レイナは、何となくいたたまれない気持ちになった。 ――あんな虎を一瞬で! 一方で、シャムは素直に自分を救けてくれた少女に感心していた。 ――なのに私は、情けない声まで出して、恥ずかしい。 立場が逆だったら……、と考えるシャムの脳裏に、目の前の少女が虎に襲われている絵が浮かぶ。 ![]() ――悲鳴をあげる少女。その服は猛獣の爪と牙に引き裂かれて…… 自分の妄想に、別の意味で恥ずかしくなるシャム。妙な気分を振り払い、シャムは改めて感謝の言葉を述べる。 「た、助けてくれてありがとう」 「ど、どういたしまして」 少女たちの間に、打ち解けた空気が流れ、ふたりは互いに名乗りあう。 「私は、シャム」「レイナよ」 "レイナ"という名前に、シャムは内心、驚愕する。 ――この娘がヴァンス伯爵の! 緊張で身を固くしたシャムの頬に、レイナの指が触れる。 「ひゃんっ!?」 「ご、ごめんなさい。ここが赤くなっていたから……これは、虎に舐められたせいね」 レイナは薬を取り出し、シャムの頬に塗りはじめた。 ――あ ひんやりとした薬の感触と、それを塗る指の動きが気持ちいい。やがて薬を塗り終え、離れていくレイナの手をシャムは、少し残念な気分で見つめて…… ――何考えてる私! 相手は噂に聞く、伯爵の娘にして美闘士。助けられた恩はあるが、ここは警戒しなけばいけない。そう考えるシャムに対し、レイナは切り出す。 「さて、あなたがここで何をしているか、聞かなければいけないけど」 「……」 緊迫した空気が流れる。 「私も、ちょっと訳ありなんで、お互いそれには触れないってことで!」 「……え!?」 一気に空気が緩む。 「い、いいのかよ」 「一つ、あなたは悪人に見えない。二つ、ここで騒ぎになると私の身が危うい」 理由にならない理由を真面目な顔で話すレイナに、思わずシャムは吹き出す。つられてレイナも笑い出した。 「アハハッ、可笑しなヤツだなあんた」 「フフッ、そうかな」 ひとしきり笑い合った後、レイナは再び真剣な表情に戻り、シャムに尋ねた。 「この先にある峠の"噂"についてなにか知らない?」 「人が襲われるってやつか?」 シャムの言葉にレイナはうなづく。 ――それは私のこと とは、もちろん言えず、シャムは質問で返した。 「噂が本当だとしたら?」 「元凶を倒すわ」 迷いなく答えるレイナにシャムは慌てた。 「ま、待って」 「え?」 ――私は何を必死になってるんだ。 そう思いつつ、シャムは言葉を並べる。 「ほ、ほら、噂が本当だとは限らないし、話が大きくなってるだけかもしれないし、会ってみたら実はイイヤツかもしれないし」 「そうなのかな?」 当初は怪訝そうなレイナであったが、最後にはシャムの言葉にうなずいた。 「何ごとも短慮はよくないわね。私も噂だけで、少し熱くなってたみたい」 「そ、そうか」 ほっとするシャムにレイナが微笑む。 「ありがとう。シャムの話を聞けて良かった」 「私もレイナに会えてよかった。まあ、きっかけはアレだったけれど」 シャムは苦笑で応える。ふたりは固く握手をし、互いに別れを告げた。 ――優しくて、強い。あれが美闘士か。 シャムは、今日あった少女の姿を思い浮かべる。 ――そして綺麗だった…… レイナの笑顔を思い出し、シャムの動悸は激しくなった。 「落ち着け私、これじゃあまるで……」 複雑な想いを抱えつつ、シャムは帰り道を急ぐ。 その晩、シャムはレイナの夢を見た。 『シャムとレイナと愛玩獣』――完 ■次回予告 レイナの優しさに触れたシャム。悩みつつも白骨峠に向かう彼女だったが、その前に現れたのは……。次回『魔女の使い魔』 ■ストーリー原案:土産物屋ハンス ■イラスト:、 ■テキスト:十之三乗 |

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