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2012年 1月 05日(木曜日) |
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第三話『出陣』
「きゃ、きゃーっ! こ、これなんなんですかーっ!」
水の街『ザネフ』の片隅に建つ小さな家で、水先案内人アルの悲鳴がこだまする。
「はじめまして奥さん、ちょっとお逃げにならないで」
「ホホホ、揺れるお肉が実に美味しそうでございますねェ」
熊と蛙のぬいぐるみが空中を飛び回りながら、アルを追いかけてくる。
「冥界に住まう七十二の上級悪鬼、その強大な力からご自身を守るため、媒介として無害なぬいぐるみを選ぶその手際、まさにもって生まれた才能としか言いようがございませんわ」
侍女が感心したように告げる。
「召喚? これは、私が呼び出したんですか?」
「左様でございますわ」
「それなら……」
アルは追いかけてくる熊のぬいぐるみを睨みつけた。呼び出された悪鬼は召喚主の命令に服従するはず……。
「止まりなさいっ!」
ぴたりと熊のぬいぐるみが静止する。
「はいはい、止まりまっせ。奥さん……せっかくだから自己紹介をさせてもらいましょ」
「ど、どうぞ……」
「わしの名はベルフェ、四十の軍団を率いる冥界の公爵、大地の力を引き出す魔法を使い、召喚士である貴女の力となりましょう」
熊のぬいぐるみが足元で臣下の礼を取る。
「お見事でございます。できればもう一体もお止めになられたほうがよろしいかと……」
侍女服の少女がアルの下半身に目を向けた瞬間、彼女の下腹部をつつんでいた紫色の薄布がはらりと床に落ちる。
「ひゃわわわっ! な、なにをするんですかっ!」
秘めらるべき場所がすーすーする感覚にアルは顔を真っ赤にしながら、カエルのぬいぐるみを踏みつけた。
「グハァ……、お、奥様ァ、冥界の伯爵にして冥界最高の料理人ドゴールを足蹴にするとは……さすが……」
ぶじゅるっと不気味な音をたて、カエルのぬいぐるみ、ドゴールが黄金色の液体を吹き出しながら悶絶する。
「意識を集中なさるべきかと思いますわ」
侍女の言葉にアルは熊のぬいぐるみへと視線を戻した。ぬいぐるみの口から紫色の薄布が微妙にはみ出している。
「ああっ! な、なにを食べてるんですかっ!」
「うふふ、若奥様のいろんなお汁が合わさった最高の珍味ですな~」
むしゃむしゃと美味しそうに、アルの下着であった薄布を平らげ、ベルフェがニタリと笑う。
「召喚獣たちは基本的に空腹です。しっかりと引き締めないと貴女すら食べようとするでしょう。お気を付けくださいませ」
「そうですよォ、だから、しっかりと食欲を満たしていただきませんとォ」
下着だけで満足できなかったのか、ドゴールがアルのすらりと伸びた足を包むストッキングに舌を這わせてくる。
「ひゃうっ!」
反射的に足を振り回し、ぬいぐるみを吹き飛ばす。壁にぶち当てられたドゴールは満足そうに親指を立てながら、ずるずると落ちていった。
「わ、わたし……きちんと制御できるでしょうか?」
ぬいぐるみに下着を食べられてしまったアルが少しでも隠そうとエプロンの裾を引く。
「ご安心を。貴女様の能力は間違いなく大陸随一ですわ」
侍女は微笑みを浮かべ、新しい下着をアルへと手渡した。
「どうぞ、穿き心地は保証いたしますわ」
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「あ、ありがとうございます……それはそれとして、この子たち、何ができるんですか?」
「奥さぁ~ん、貴女ね、召喚主なんだからそれぐらい把握しておいてくださいよぉ~」
ドゴールが不満の声を上げる。
「わしは炎を吐いたり、大地の力を引き出す魔法で奥さんのお力になれますぜ。で、あっちのドゴールは……」
「ホホホ、私はなんでも溶かす液体や動きをとめる粘着液を出せますよぉ、その気になれば奥様も……」
ぺぺぺっとドゴールが黄金色の液体を口から発射する。アルはとっさに手にしたパドルで粘着液を受け止め、ドゴールに視線で命令を下した。
「奥さん、炎ですね」
ベルフェが口から地獄の業火を吹き出す。ドゴールはそれを紙一重で避け、床に転がり落ちる。
「ドゴール、召喚してくれたお人には従わないといかんよ」
「ホホホ、ベルフェ、固いことは言わないでくださいよォ、奥様が私たちの主人にふさわしいか試しただけの、ほんのお茶目じゃないですかァ」
ドゴール、アルの尻を見上げて舌なめずりする。
「その調子で、召喚主として二体を使役してください。この二体の力を活用できれば並の美闘士など恐るに足りません」
侍女はにっこりと笑ってアルの力を褒め称えた。
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「まったく、機密保持のためとはいえここまで深くすることもなかったかもしれんのう」
女王の城の地下深くにある自室で、ユーミルは誰に言うとも無くつぶやいた。
「いやいや、深くないと困るんだよね。これが」
「誰じゃ!」
ユーミルは部屋の中に突如出現した赤いドレス姿の女に向けて叫んだ。
「いちおう、はじめまして、かな? ボクの名は千変の謀略者メローナ、ボクの目的のためにもうちょっとだけ鋼鉄参謀の姿を借りるよ」
メローナの宣言と共にユーミルの足元から、ピンク色をした無数の触手が伸び彼女の身体を包み込む。
生暖かい脈動を繰り返しながら、触手はユーミルの全身を撫で回し、姿かたちを記録していく。
身体中から伝わってくるおぞましくありながらも、心地よい感触に戦慄しつつユーミルは意識を失った。
「やれやれ、このぶんじゃ留守中にこっちもいろいろあったみたいだねぇ……」
メローナの姿が瞬く間に赤いドレス姿から、鋼鉄参謀ユーミルへと変化する。
「さて、もう一仕事してくるかのう」
にせ鋼鉄参謀はそうつぶやくと、隣室へと通じるドアに手をかけた。
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「叛乱軍は冥界の走狗となって、この世の理を乱している……と、鋼鉄参謀ユーミル様からお聞きしました」
「そ、それは間違いじゃ!」
女王の城の地下奥深くにある鋼鉄参謀ユーミルの私室で、宝石姫エイリンは思わず声を上げた。
「間違い……なのですか?」
エイリンの話し相手、神罰の執行者ライラが小首を傾げる。
「おぬしは昔から騙されやすいからのう……わちの見立てではそんなことはないと思うのじゃが」
「昔から?」
「なんじゃ、おぬし、わちのことを憶えておらんのか? おぬしが人間として暮らしていた頃は、あれだけ世話をしてやったと言うのに……」
「憶えて……います、よ?」
「なんじゃ、今の間は……」
「お、憶えていますよ。本当です・・・・・・よ?」
ライラは聖具シャダイの聖砲をぎゅっと抱きしめながら、エイリンに視線を向けた。
「とにかく、叛乱軍は冥界とのつながりはないのじゃ、天界が介入する余地はないと思うのじゃがのう」
「でも……叛乱軍の首領はあやしい馬に乗ったり、魔人になったりするって聞いてます・・・・・・よ?」
「そ、それは……」
エイリンは思わず口ごもった。叛乱軍と冥界がつながっているという証拠はないが、アンネロッテ個人の能力については否定できるほどの情報がないのも事実だった。
「神罰の執行者をそそのかすは止めるのじゃ、エイリン!」
ドアを勢いよく開け部屋へとやってきた鋼鉄参謀ユーミルがエイリンとライラの会話をさえぎる。
「そそのかす? ユーミル姉、ワチは真実を知りたいだけなのじゃがのう」
「叛乱軍がここガイノスに迫っておる。ライラ、出陣の時じゃ!」
鋼鉄参謀はエイリンを無視し、ライラに出撃を命じる。
「はい……出陣ですね……はい」
「ま、待つのじゃ、ライラ」
エイリンの言葉を受け、ライラがふと動きを止める。
「戦に出るのか?」
こくりとライラが頷く。
「黙るのじゃ、宝石姫」
鋼鉄参謀ユーミルの鋭い声が、二人を分断する。
「いくら従姉妹とはいえ、度が過ぎるとワシでも庇いようがない……戦が終わるまでここでじっとしておれ」
鋼鉄参謀の冷徹さを感じさせる言葉に、エイリンは思わず後ずさった。
「さあ、ライラよ。女王陛下がお待ちじゃぞ、陛下に逆らう愚か者達に思う存分、神罰を与えてやるがよい」
鋼鉄参謀の命を受け、ライラが部屋から出て行く。
違う……彼女は自分の従姉妹である鋼鉄姫ではない。エイリンの知る鋼鉄姫ユーミルは戦いをけし掛けるような真似をするぐらいなら、自ら武器を手に戦場へと赴くはずだ。
「おぬし……何者なんじゃ? ユーミル姉をどうしたのじゃ」
エイリンの問いに、鋼鉄参謀は薄笑いを浮かべた。
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「来たか……」
女王クローデットは目を細め、はるか彼方の地平線にその姿を現した神機要塞ブライを睨みつけた。
「恐れるな我が精鋭たちよ! 我らは大陸最強! 決して負けはせぬ! そして、我らには神の加護がある!」
兵を鼓舞するクローデットの声にあわせ、ライラが純白の翼を輝かせながら女王の城から飛び上がり、兵士たちの上を飛翔していく。
「我らに勝利を!」
「女王陛下万歳!」
神々しいその姿に、兵士達は勝利を確信し声を張り上げた。
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女王精鋭軍対叛乱軍ブライ。
ついに大陸最大の大戦の幕が上がる。
この戦いを制するのは、クローデット率いる女王軍か、アンネロットの元に集った叛乱軍か。
次回『対決』を活目して待て!
ストーリーテキスト:沖田栄次、イラスト:織田non
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