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『クイーンズブレイドリベリオン』イラストストーリー~激動編~第7話
2010年 2月 25日(木曜日)

第7話


激動編 第7話「猛虎の巣」

「あなたと出会えて本当に良かった。マリア」
「まあ~ま、とりあえず修行完了ということで乾杯といきましょー。ほらほら、そっちのお嬢ちゃんもね!」
「は、はいっ」
王都ガイノスに近い、交易都市の酒場である。
アンネロッテとミリムと一緒にジョッキを傾けるのは"幻影の戦士"マリア。かつてアンネロッテの命を救った孤高の仮面の戦士。徒党は組まず、一人で女王軍と戦い続ける凄腕の闘士。戦いが終わるとすぐにどこかへ消えてしまうため、人は彼女を幻影の戦士と呼ぶ。彼女の正体はみんな知っているような気がするが、なぜか口に出せないという。幸いアンネロッテとミリムはマリアの素性をまったく詮索しようとしないため、気に入られていた。
かねてよりマリアを尊敬していたアンネロッテは、ミリムと共に彼女の元を改めて尋ね、戦いの教えを請ったのである。
マリアは「私の初めての弟子ね。よろしく!」と快諾。数か月の修行の後、彼女と暮らす日々で確実に何かを掴むことができたアンネロッテ。今、卒業の時となったのである。

マリアのジョッキの中にはエールがなみなみと満たされているが、アンネロッテとミリムのそれには白い乳が注がれている。
酒場で頼むには奇異な飲み物だが、変わった客の多いこの街の酒場でそれを訝しんでいては商売はできない。店も、他の客も、特にアンネロッテたちを観察しようとはしていなかった。
それが、お尋ね者のアンネロッテやミリムにとっては有り難い。
なにしろ、女王への叛逆を企てただけではなく、いまや教王庁に『異端』と認定された、神への反逆者でもあるのだから。
「アンネロッテ、あなたはリスティに会った方がいいわ」
“幻影の戦士”マリアは、もうかなり眠いのだろうか、時折船をこぎながらアンネロッテたちにそう言った。彼女は何者かに"眠りの呪い"をかけられており、1日16時間以上の眠りが必要であり、強烈な眠気が断続的に突然訪れてしまうのだ。
「リスティ……“荒野の義賊”?」
アンネロッテの隣に座っていたミリムが首を傾げて尋ねる。
「そ。あなたはトモエやあたしと修行して、強くなった。だけどそれもあなた個人のことでしかない。あなたが目指しているのは、一対一の強さを極めることでは……ないんでしょう?」
「ああ、そうだ……仲間たちと力を合わせ、1と1とを足し合わせて2以上の強さを生み出す……その必要が、ある」
「なら、やっぱりリスティね。組織を作り上げるコトの難しさと重要さ、そこから生まれる力の使い方……彼女はそれに精通していた」
弄ぶようにジョッキを揺らしながら、マリアは言う。
「彼女はあなた達よりも前から女王クローデットとの戦いを決めていた。そうして仲間たちを集めて叛乱軍を組織していた……けれど」
「私が助力を乞おうと、彼女がいるはずの大牙山に入ったとき、そこは既にもぬけの殻だった……逃げ出した彼女の仲間たちから、どうやら何者かに襲われたのだと言うことは判ったのだが……しかし、今現在彼女がどこに囚われているのかは、結局掴めずじまいだったんだ」
アンネロッテは、もぬけの殻となったリスティたちの隠れ家を思い出し、唇を噛み締めた。
「女王軍に先回りされて捕らえられた……ということなんでしょうけど、襲ったやつらのこと、ちょっと気になるわね」
「ああ、女王軍とは違う勢力……の、ように思える。第一、女王が叛乱勢力を捕らえたのなら、見せしめのためにそれを発表するはずだ」
「リスティの反乱計画が大規模すぎて、発表すると逆に人心を惑わすから、秘密のままに処分する……なんてことも、あるかもよ」
もう堪えられないとばかりに、頬をテーブルにぺたりとくっつけながら、マリアが言う。

「むにゃ…そういう重犯罪人を送り込んで、秘密裏に処刑するような収容施設があるっていう噂も聞いたことがあるわ……どこかは知らないけど」
「……そこを突き止める、というのが次の目標……か」
途方に暮れるアンネロッテ。むにゃむにゃと眠りこけるマリア。
どん詰まりの雰囲気は、予想外の方向から打ち破られた。
「知ってますよお~……ヒクッ!」
アンネロッテも、半分以上眠っていたマリアも声の主を振り返る。ミルクの入ったジョッキを両手で持って、顔を真っ赤にしているミリムが上機嫌でニコニコしていた。
「北部辺境に“猛虎の巣”と呼ばれる強制収容所があるんです~。ふえっく……そこは一般的には存在を秘密にされていて、重犯罪人や、存在を公に出来ない罪人を収容したり、処刑したりするために使われてる……そう、聞いたことがありますう」
どこか夢見心地の表情を見せながら、それでもすらすらと答えるミリム。
「本当か! でかした、ミリム!」
そう言ってアンネロッテはミリムの肩を叩き……顔をしかめた。
「……酒臭いっ! み、ミリム! お前、何を飲んでいるっ?」
「え、これですかあ?」
ジョッキの中身をだばだばとこぼしながら飲んで、ぷへえと酒臭い息を吐いてから、ミリムは答えた。
「ミルクですよう」
「絶対違うっ!」
「ミルクは黄色くないし、泡も出ないはずだよね……」
「ミルクですってえ、向こうのおじさんが、『お嬢ちゃんそんなものよりおじちゃんのおいしい特製ミルクを飲んでみな』って言って、くれたんですからあ」
アンネロッテとマリアに対して、けらけら笑いながらミリムは答えた。
「それでですねえ、聞いてくださいよう。エリナさんったら良くわたしのこと『これ以上ヘマしたら猛虎の巣に送り込んでやるから』って脅かすんですよう。ヒドいと思いません? 思いますよね? わたしだって好きで失敗してるんじゃないのに、いっつもいつもあら探しして、わたしのこといじめて……ううううう」
「ま、待てミリム、離せ、あんまりくっつくな!」
「まだまだあるんですよう、それでね、だから……」
「ちょ、ちょっと、マリア! た、助けてくれっ!」
「ぐうぐうぐう」
「寝てるっ!」
ひどい絡み酒のミリムを宿へと連れてゆくのに、アンネロッテは多大な努力を払わなくてはならなかった。
二度とミリムを酒に近づけまい、そう決心した彼女なのであった。




『猛虎の巣』は、ミリムがもたらした情報(ちなみに、本人はそのことをまったく覚えていなかった)の通り、大陸北部、雪に覆われた針葉樹林の中に築かれた要塞のような施設だった。
「あたしもちょっと調べてみたんだけど、三代前の女王がこの施設を建造して、自分に逆らう者たちを投獄していたらしいわ」
声を潜めて、マリアがアンネロッテに言う。
「アルドラの治世ではこの施設は使われることはなく、ただ朽ちるに任せていたんだけど……」
「クローデットが復活させた、ということか」
「そゆこと」
「アンネロッテお姉様、マリアさん、そろそろ着きそうです」
『外』の様子を窺っていたミリムが小声で二人に言う。
「そうか……この狭苦しいのとも、ようやくお別れだ」
「良かったわ、これ以上ここに押し込められてたら、身体が固まっちゃう」
『猛虎の巣』へと送られる物資の荷馬車、その中の狭い隙間に、三人は複雑に絡み合い隠れていたのだった。
がたん、がたんと荷馬車が揺れ、停まる。それを合図に、三人は顔を見合わせ、堅く頷き合った。
「じゃあ、段取りの通りに」
「マリア、あなたにはまだまだ教わりたいことがたくさんある。こんなところで、倒れないでくれ」
「ヤバそうだったら適当に逃げるわよ、そっちこそ、頑張ってね」
「二人とも、衛兵が来ますっ!」
「じゃあ、出るわね……やあっ!」
衛兵に積み荷を改められる、その機先を制するように、マリアが荷馬車から飛び出した。
「あんたたちが捕らえた囚人、全員返してもらうわよっ!」
そう言いながら、衛兵を斬り倒すマリア。流れるような動きで衛兵二人と荷馬車の御者を倒すが、ほとんど同時に監視塔の上から甲高い警笛の音が響く。


「おいで猫ちゃん、全員ぶっ倒してあげる!」
どこか楽しそうにすら見える様子でマリアが叫ぶと、それに答えるように衛兵たちが監視塔の上から彼女に矢を射かけた。雨あられと降り注ぐ矢を、盾を持ち上げて防ぐマリア。
「ちょ、ずるい!」
悪態をつきつつ盾の裏側から取り出したダガーを投げつけると、弓を手にした衛兵が悲鳴と共に監視塔から落ちてゆく。
「ほーらほら、遠くからなら平気だなんて思ってると、痛い目に遭うわよーっ!」
マリアの挑発に応えて、槍を構えた衛兵がわらわらと現れる。
「まったく、一人に対して大仰なこと!」
改めて剣を握り直しながら、間違いなくとても楽しそうなマリア。
衛兵が突き出す槍の穂先を斬り飛ばしながら、気配だけで彼女はアンネロッテたちが首尾良く荷馬車を脱出したことを知る。
「ほらほらほら、あんたたちなんてあたし一人で充分ぶっつぶせちゃうんだからね!」
遊戯でも楽しむかのように快活な声で叫びながら、マリアは殊更に自分が一人であることを強調するのだった。




その頃、まんまと荷馬車から逃げおおせたアンネロッテとミリムは、要塞の裏手へと回り込んでいた。
遠くの方からは戦いの音や声が風に乗って耳に届いている。これが聞こえている限り、マリアも、自分たちも無事なのだ。
「マリアが用意してくれた見取り図によれば、このあたりから地下に潜ったところが囚人たちの牢獄のようだが……」
悔しそうに、アンネロッテは石壁に手のひらを当てる。情報では扉があったはずだが、最近の改装によってか、その扉は塗り込められて使えなくなっているのだった。
「仕切り直しか……他に入れる場所を探さないとな」
そう言ったアンネロッテに、ミリムは首を振って答えた。
「いいえ、お姉様。ここを逃しては、時間がなくなってしまいます」
「では、どうすれば……」
「開けます……ここを!」
決死の覚悟で、ミリムは剣を構える。彼女の気合に応じて超振動クリスタルが明滅し、超振動剣が唸る。
「……てやああっ!」
壁に向けてミリムが剣を突き立てると、がりがりと言う轟音と共に壁から火花が散った。
「ひゃあううううっ!」
全身を襲う振動に思わず声を上げながらも、ミリムは壁への攻撃を止めはしない。
「み、ミリム、無理をするなっ!」
「だっ、大丈夫、ですうっ……! ひゃうんっ! お、お姉様のっ……ため、ならっ……あああっ……!」
歯を食いしばって振動に堪えるミリム。
顔中に脂汗を浮かべた彼女を、見守ることしかできない。そんな自分がアンネロッテは歯がゆかった。
「ミリム……ミリムっ!」
「あ、あんっ……! お、お姉様……アンネロッテ……お姉様あっ……んひゃあうっ……!」
ぼこっ!
不意にミリムの剣に手応えがなくなった。剣が壁を削りきり、反対側へと貫通したのだ。
「やった! って、あ、え、あら……?」
会心の笑みを浮かべたのもつかの間。がらがらと崩れる壁につられて、前のめりにミリムが倒れてゆく。
「ミリムっ! 危ない!」
咄嗟に手を差し伸べ、、ミリムを掴もうとするアンネロッテ。
「お、お姉様っ!」
「あ、うわ……っ!」
だが、そのアンネロッテもまた、ミリムと共に壁の向こうへと、半地下のだだっ広い空間へと落ちてゆくのだった。




ざっぱあ~ん!
数メートルを落ちたはずだが、下が水だったおかげでアンネロッテもミリムも大した怪我はなかった。
ただの水? いや、違う。
「あ……熱いっ!」
慌てて飛び上がるアンネロッテ。もうもうと湯気がその顔にまとわりつき、1メートル先すら良く見えない。彼女たちが落ちたのは水ではなく、熱湯の中だったのだ。
「だ、大丈夫ですか、アンネロッテお姉様!」
超振動鎧のおかげでまったく無傷のミリムが、アンネロッテを案じて声をかける。アンネロッテは素早く全身に意識を渡らせて、どこも怪我などしていないことを確認すると、ミリムへと頷いた。
「だ、大丈夫だ……それよりも、こ、ここは、一体……」
アンネロッテの呟きに答えるように、ミリムが崩した壁からさあっと吹き込んだ風が、彼女たちを覆っていた湯気を吹き飛ばす。
「な、なんっ……!」
「きゃ……!」
絶句するアンネロッテ。思わず目を覆うミリム。
二人の周りには、一糸まとわぬ姿の娘たちが、ぽかんとした顔で立ちつくして二人を見つめていたのであった。
かぽ~ん。
どこかからそんな音までが響く。
「お……お風呂……?」
ようやく自分たちがどこにいるのか把握したミリムが、声を震わせて呟いた。
衛兵たちのための大浴場。
恐らくは、そんな場所なのだろう。
「しっ……」
全裸の娘たちの一人が、呆然と呟く。
「し……?」
思わず聞き返してしまうミリム。
「し……侵入者ああ~っ!」
何も着ていない、装備していないとはいえ、彼女たちも衛兵の一員。
叫び声で我に返ると、アンネロッテたちを捕縛するべく取り囲む。
「お、お姉様っ……!」
「慌てるな、相手はみんな丸腰……なんとかして突破するっ!」
「は、はいっ!」
お互いを守るように背中を合わせて、ミリムとアンネロッテはそれぞれの武器を構えるのだった。


はたしてアンネロッテとミリム、そしてマリアはリスティを救出することができるのだろうか?

それは、戦ってみなければわからない。

- つづく -
ストーリーテキスト:松智洋、イラスト:えぃわ

 
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