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『クイーンズブレイドリベリオン』イラストストーリー~激動編~第6話
2010年 2月 11日(木曜日)

第6話


激動編 第6話「密林」

南方密林。
大陸南部にうっそうと茂るジャングルには、まだ未知の部分が多く、そこにはまだ誰も発見していない秘宝や人知れず佇む古代遺跡、知られざる生物などが息づいているという。
「ガオォン……!」
疲れを知らない働きぶりで、文字通り道なき道を切り開いて進んでいるのは“錬金鋼人”ヴァンテ。その後ろに三人の人影が続く。
「ほんっとお~に、こんなところに秘密兵器が眠っているネ、ユイット?」
何度も繰り返された質問を、再び繰り返すのは、“対魔師”ターニャン。
戦いの果てに友情が生まれたとでも言おうか、“錬金軍師”ユイットとは気安い間柄になっている。
「何回も同じこと聞くのは合理的じゃないよ、ターニャン。お母さんの残してくれた巻物、暗号で書かれているから解読も簡単じゃないし……」
「そぉんな、ホントかウソかも判らないような手掛かりで、人をこんなジャングルにまで連れてきたっていうネ?」
「あ~あ、また始まった……他に手掛かりなんてないんだから、これに頼るしかないのにね」
二人の言い合いを見て、“対魔師”サイニャンはため息をつく。
彼女たちは今、このジャングルの最奥にあるという古代遺跡“カリバラ遺跡”を目指していたのだった。




女王軍の襲撃によってアンネロッテは魔人化し、行方不明となっていた。
だが、アンネロッテが志半ばで倒れるとは、ユイットたちも、叛乱軍の誰も、思ってはいない。
だから、自分たちのするべきことは、アンネロッテが戦線に復帰するまでに戦力を更に増強することだと、ユイットたちは考えた。
そしてユイットが目指したものが、“移動要塞ブライ”。
かつてユイットの母、“偉大なる錬金術師”が追い求めていたという、古代文明の遺産。それは要塞でありながら自ら移動し、戦場を支配するという。
何しろ娘をヴァンテにまかせて、あてもない旅に出てしまうようないい加減な性格の母である。要塞の手がかりは今ユイットがにぎりしめている怪しげな巻物ただひとつである。
サイニャンの卦でも『南方に吉あり』と出たことも相まって、彼女たちはアンネロッテとの合流を待たずに南方密林へと出発したのであった。
「で、巻物の解読とやらは進んだネ?」
「進んだような、進んでないような……暗号は解読できても、その内容が謎解きみたいになっていて、サッパリなのよ……」
「謎解き、ねえ……サイニャン、なぞなぞとか好きだから、判ったりしないネ?」
「な、謎解きとなぞなぞを一緒にしちゃいけないと思う……」
「そりゃそーだけど、なんかの手掛かりになるかもしれないし、ユイット、そのなぞなぞとやら、ワタシたちに聞かせるネ」
「う、うん……」
しぶしぶと言った感じでユイットは母の手帳を開き、ターニャンとサイニャンに読んで聞かせた。

「門は鍵となり、鍵は門となる」

「……」
「……」
「……それだけ?」
「う、うん」
「なるほどなるほど……さあ、サーニャン、謎解きを開始するネ!」
「え、ええっ! それだけで? ほ、他には無いの?」
「他は走り書きみたいなメモばかりで……『桃園の子』とか『鍵←獣の洞窟?』とか……気になるメモはたくさんあるんだけど、どうつながるのか、さっぱり……」
「固有名詞っぽいのが多いですね……このあたりの事情に詳しい人に会わないと、判らないかも……」
少ないヒントでなんとか答を見付けようと頑張っているサーニャンがそう言うと、ユイットも頷いて同意した。
「だから、このジャングルに来たのよ……この奥には昔『カリバラ族』という人間の民族が住んでいたって、記録にあるの」
「昔……」
「住んで『いた』……?」
「うん。記録では森を住処とする『ワイルドエルフ』と戦争になって、滅ぼされたってことになってるけれど……」
「でも、もしかしたら、生き残っているかもしれない?」
「少なくとも、お母さんが生まれるよりもずっと前に滅んだハズのカリバラ族と、お母さんが接触したことを匂わせる記述がこの巻物にはあるの。だから、もしかしたら……。それにブライみたいな巨大なものが隠すにはこの未踏のジャングルは合理的だよ!」
一縷の望みを託して、ユイットはジャングルの奥へと視線を向ける。
その時だった。
「きゃああああ~っ!」
ユイットのものでも、ターニャン、サイニャンのものでも、ましてやヴァンテのものでもない悲鳴が、彼女たちの耳に届いたのは。


「た、た、助けてぇ~っ!」
悲鳴を聞きつけてやってきたユイットたちが見たものは、奇妙な光景だった。
「な、なにネ……これ……?」
細かいことは気にしないターニャンでさえも、呆然と呟くことしかできない。
「あ! そ、そこの人たちぃ~、お願いです、どうか……どうか助けてぇ~!」
薄い布だけを身にまとった少女が、上下逆さまになりながらユイットたちに向けてそう叫んだ。
このあたりの民族衣装なのか、ほとんど胸の先だけを隠す布と、飾りのように腰に巻かれた宝玉、象の顔を模した飾りが股間を隠すのみで、少女の豊満な身体はほとんど外気に晒されている。
その少女が、子供の腕ほどの太さのロープのようなものに絡め取られていた。
「た、助けてって言われても……」
「ターニャン、あれ! なんかの動物みたいだよ!」
サイニャンが指差したのは、助けを求める少女の真下の地面。
「なにあれ……虎?」
「虎って……あんな、その……触手が、付いてたっけ?」
ユイットたちを睨んでうなり声をあげているのは、確かに虎のように見える。
だが、その背中には二本の触手が生え、それが少女を絡めて宙に持ち上げているのだ。
「こ、これは触手虎ですーっ! こうやって触手で獲物を絡め取って、弱らせてから食べるんです~っ……あひゃう、ひあ、へ、変なトコ触らないでえーっ!」
触手に身体をまさぐられて、悲鳴を上げる少女。
「た、食べられるって……やばい、助けなきゃ、ヴァンテ!」
「ガオオン!」
ユイットがヴァンテに命令を下し、攻撃させようとする。
「待つネ! 闇雲に攻撃しても、獣は娘を連れて逃げ出すだけネ! ここは……あたしに任せるネ」
「な、なんでもいいから早くしてえ~っ! あひ、ひゃうんっ!」
すらり、とターニャンが刀を抜き、構えるのを見て、宙吊りの少女が青ざめる。
「ひゃ、ひゃうっ……き、斬らないでえっ……!」
「大丈夫、いいからじっとしてるネ……いくヨ! サイニャン!」
サイニャンが右手でターニャンの肩に触れる。サイニャンが左手で印を切るとターニャンが構えた剣先に不思議な力が宿り始める。
「ターニャン、何をする気……?」
「聖剣技、泰然自若……サイニャンの霊力をあたしの剣にこめて、敵の戦意を削ぐことができるネ……うまくいけば」
「う、うまくいくんでしょうね?」
「それは……あんな動物初めて見るから、うまくいく保証なんて……」
「ちょっと……しっかりしてよねぇ、ターニャンっ……!」
「静かにするネ! 集中できないヨ!」
ターニャンの額には脂汗が浮かび、彼女の集中の度合いを示していた。背後からの野次に口答えをしつつも、その剣はゆらゆらと弧を描くように動き、まるで空中になにかの模様を刻んでいるかのようにも見えた。
「ううう~……あ、頭に血が……昇って、きた……」
逆さまになったままで長時間いたせいで、顔を真っ赤にした少女が呟いた頃、ようやく触手虎の様子に変化が現れた。
「グルルルル……」
低くうなり声を上げているのは変わらないが、ゆっくりと背を伏せ、触手に捉えたままの少女を地面に降ろすと、その触手をほどいて彼女を解放したのだ。
「きゃう!」
尻餅をついて悲鳴を上げる少女。
「グルル……」
その肢体を名残惜しそうに見つめながら、触手虎は後ずさり、ジャングルの奥へと消えていった。
「ふぅ……なんとかなったネ……」
ようやく気を抜いて、ターニャンが額の汗を拭う。
「すっごいじゃない、ターニャン。ものすごく合理的な手段だったよ!」
「まーね、あたしだってやるときはやるネ!」
「……普段から真面目にやってれば、ボクもこんなに苦労しないのに」
サイニャンの呟きは例によって誰の耳にも届かない。
サイニャンに苦言を呈されたことにも気付かず、ターニャンは解放された少女へと尋ねた。
「で、あんた誰? なんでこんなジャングルの中で、あんなヘンな動物につかまってたネ?」
「はっ! そうだった! どうもありがとう、おかげで助かっちゃった! 触手虎に食べられるトコだったわ~」
そう笑ってから少女は、ぺこりと一向に向けてお辞儀をすると、姿勢を正してこう名乗った。
「ありがとー、あたしはルナルナ。“太陽の踊り手”ルナルナって呼ばれているわ」
「ルナルナ……? あ、あたしはユイット。こっちがヴァンテで、その首輪で繋がっている変な二人がターニャンとサイニャン」
「ユイット、ヴァンテ、ターニャン、サイニャン、うん、よろしく!」
「い、いえね、よろしくはいいんだけど、あなた、どこから来たわけ? この近くに人が住む村でもあるの?」
どこか噛み合わない会話に困惑しつつユイットが尋ねると、ルナルナは答える代わりに両手を頭上に掲げ、くるりとその場で回ってみせた。
「アハハッ! 助けてくれたお礼に、あたしの舞を披露するわ!」
「い、いや、だから舞じゃなくってね……」
「へ? そういえば、あなたたちは部族の人じゃないわよね? 耳がとがっているからワイルドエルフなんだよね?」
踊りを止められてもまだまだマイペースなルナルナに問われて、ユイットが答える。
「いや……わたしたちはクロイツ辺境伯領からやって来たの」
アンネロッテの叛乱軍の拠点がある土地の名前を口にすると、ルナルナはそれを聞いて首を傾げた。
「くろいつへんきょうはくりょう……って、この森のどのあたり?」
「この森の中じゃなくって、このジャングルを出て、北東、アマラ砂漠を越えてもっと先だよ」
頭の中に地図を思い浮かべながら説明するユイット。
それを聞いて、ルナルナは怪訝な表情だ
「外? ジャングルの外ってどういう意味?」
「えっ?」
「とにかくあたし達部族とワイルドエルフ以外の人は、初めて見たあ! 珍しいっ!」
「……どうやらこの子にとっては、このジャングルが世界の全てみたいだね……」
サイニャンの的確な分析に、ユイットは思わずうなずいてしまう。とにかくジャングルの住人に出会うことができたのだ。カリバラ族のことは知らないようだが、何か要塞の手がかりを聞くことができるかもしれない。
「ああ! さっきまでは触手虎につかまってもーダメって思ってたけど、産まれて初めて出会った他所の人に助けてもらったなんて、なんて幸運! この気持ちを踊りにして後世に伝えなくちゃ!」
そう叫ぶやいなや、ルナルナは再び身体をくねらせて踊り始める。
「ちょ、ちょ、ちょ、待って! 待ってよ、踊りはもういいからっ!」
慌てて踊りをストップさせると、ルナルナは不満げに口を尖らせた。
「えー、せっかくカリバラに伝わる歓迎の舞を披露しようと思ったのにぃ」
「そ、それはまた今度の機会にね……って、カリバラ?」
「え? うん、あたしカリバラ族のルナルナ。部族の守護者にして、一番の踊り手だよっ」
「ま、まさか……」
「こんなあっさり見付かるなんて……」
呆然とする一行。ユイットはなんとか気を取り直し、ルナルナに質問する。
「そ、そのカリバラ族を探して、あたしたちはこのジャングルにやって来たの! ねえ、“獣の洞窟”って名前に、聞き覚えはない?」
「えっ、“獣の洞窟”……? そりゃ、知ってるけれど……」
首を傾げながら、ルナルナが答えた。
「でも、部族の者以外には教えてはいけない掟……」
そう呟いて、困ったような顔をしたルナルナだったが、すぐにぱっと明るい顔で笑うとこう続けた。
「でもま、いっか! あなたたち、あたしの命の恩人だもんね!」
「そ、そうよね……ありがとう、ルナルナ! さっそく“獣の洞窟”に案内して欲しいの!」
「うん、いいわよ、ついてきて」
上機嫌で応じたルナルナがジャングルの奥へと向かう。一行は慌ててそのあとを追い掛けたのだった。

- つづく -
ストーリーテキスト:松智洋、イラスト:えぃわ

 
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