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『クイーンズブレイドリベリオン』イラストストーリー~激動編~第3話
2009年 12月 30日(水曜日)

第3話

激動編 第3話「来来!双子の対魔師」

クロイツ辺境伯領。
荒れ果てた辺境の地をクロイツ辺境伯が自ら領民たちと共に開墾し、一時は王国随一の穀倉地帯、『黄金の大地』と言われるまでに発展した、王国にかつて存在した地名である。
クロイツ辺境伯は女王を決める闘技大会クイーンズブレイドに反対をし続けるヴァンス伯爵を筆頭とする保守派貴族勢力には加わらず、歴代女王に忠誠を誓う真の忠義者として有名な人物であった。
一年前、前女王アルドラのクイーンズブレイドでの敗北と、新女王クローデットの即位を期に、この土地と領民の運命は逆転した。
貴族制の廃止をうたったクローデット女王に対して辺境伯が苦い顔をした、という噂がそもそもの発端だったと言われている。女王反対勢力の貴族ならいざ知らず、クロイツ伯がそのような感情を抱いたとしても誰も攻めることはできないだろう。
噂はすぐに、『辺境伯は貴族制を廃止しようとする新女王の方針に不満らしい』という形で膨らみ、更にそれが『辺境伯に叛意あり』『領内すべてを叛乱軍とするべく、女子供にまで武器を持たせて訓練をしている』と誇張されてゆくまで、さほど時間を必要とはしなかったという。
そして、とうとう王の鎮圧軍が領地へと向けられ、存在しない幻の反乱軍を叩き潰すため、クロイツ辺境伯領を炎の渦へと巻き込んだのであった。
あの女王派のクロイツ伯ですら容赦なく叩き潰される。新女王の本気を見た各地貴族たちはその後戦わずして女王に所領を返上したのである。
それが、一年前。たった一年前の出来事。
それなのに、と、アンネロッテは思う。
それなのに、自分は……自分たちはどれほどまで、遠くに来てしまったのだろう、と。
「お兄ちゃん!」
そんなアンネロッテの物思いは、呼びかけるユイットの声で遮られた。
「あ、ああ……どうだった、城内の様子は?」
「うん、修復もほとんど終わったし、元々立派なお城だったから、あたしたちの本拠地にするには充分すぎるくらいだよ!」
「そうか……それは良かった」
「あ……ごめんね、お兄ちゃん……お兄ちゃんの思い出がたくさんあるお城を、改造したりしちゃって……」
「いいんだ。ただ朽ち果てるよりも、ずっといい」

申し訳なさそうな顔になったユイットに、慌てて微笑みかけて答えるアンネロッテ。
そう、彼女たちが今いるここは、アンネロッテが生まれ育ったクロイツ辺境伯領。その城砦なのだった。
あの日、大牙山での“荒野の義賊”リスティとの邂逅がかなわなかったアンネロッテたちは、そこから逃げ出して来た、という者たちの口より、ことの顛末を知るに至った。
謎の敵の襲来によって、半壊した叛乱軍。
それを逃がすためにしんがりをつとめ、そして行方不明となってしまったリスティ。
彼女自身に会うことは出来なかったが、その代わりにリスティの仲間たち、女王軍に対する意志を持った戦士たちを仲間にすることができたのは収穫だった。
そして、ユイットの提案により、打ち捨てられ廃墟と化したクロイツ城を、叛乱の本拠地にすることとしたのである。
「人数が増えるのは心強いけれど……でも、それだけ問題も大きくなるわね」
ユイットが溜息をつく。
「やはり、物資不足が厳しいか?」
「うん……今、山賊団……じゃなかった、リスティの仲間の反乱軍メンバーたちが戻ってきてね、女王軍の補給物資を奪ってきてくれたから、しばらくは保つけれど……こんなことを続けていたら、きっと討伐隊を差し向けられちゃうわ」
「そうすれば……まだまだ、ひとたまりもないな」
「でしょ……できるだけ、今のうちに防衛のための仕掛けを整備してるけれど、正直言って時間がどれだけあっても足りる気がしないの」
「仕掛け……か。慣れ親しんだこの城におかしな仕掛けを付け加えるのは、やはりあまり楽しくはないな……」
「もぉ、お兄ちゃんったら、その話だってもう散々したじゃない。『背に腹は変えられない』って、納得してくれたんじゃなかったの?」
「判っている、判っているが……理屈と感情は別なんだ」

やはりそう言ったアンネロッテに対して、もう一度最初から説明してやろうかとユイットが口を開き掛けた、その時。
「ガオォウ! ガオォウ!」
ユイットの背後に控えていた“練金鋼人”ヴァンテが、二度、吠えるように声を上げた。
「ヴァンテ?
ヴァンテの声を聞いたユイットが、瞬時にアンネロッテの妹分の表情から、天才軍師の表情へと切り替わる。
「ユイット、どうした? ヴァンテは、何をみつけたのだ?」
問うアンネロッテに、ユイットが短く答える。
「……侵入者よ、お兄ちゃん……あたしたちの仲間以外の“誰か”が、このお城に近づいてきてる」




クロイツ城、城門前。
固く閉ざされた巨大な鉄扉の前に、二人の少女が立っている。
大陸北方の氷河山脈に存在する桃源郷、シャイファンの民族衣装を着込んだ二人組は、双方共に首に鉄輪がはめられ、その首輪は紐で繋がれていた。
この首輪と紐とを『龍麟連』と言い、雲間山脈の秘境シャイファンを守る双子の“対魔師”の証なのであった。
「ちょっと、サイニャン! ここまで来てなぁにを怖じ気づいてるネ!」
「べ、別に怖じ気づいてるわけじゃないよ……ただボクは、もうちょっと正式な手順を踏んでもいいんじゃないか、って……姉さんみたいな乱暴なやり方じゃ、うまく行くものもうまく行かなくなっちゃうって……」
「うまく行くか行かないかは、やってみないと判らないネ! やる前から失敗したときのことばかり考えてると、老けるのが早いというヨ!」
「ふ、老けないってばあ……!」

サイニャンがひるんだ瞬間、ターニャンは門扉へと身体を向け、大きく口を開けて叫んだ。
「たーのもお~っ! たのも~うっ! “叛乱の騎士姫”アンネロッテ! “練金軍師”ユイット! 二人とも出てきて、いざ尋常に勝負するネーっ!」
「ねえ、姉さん……やっぱりやめようよ~……あの人たちの強さは、前に会った時によっく判ってるじゃない」
「サイニャンの意気地無しっ! あいつらに騙されて、ひどい目に遭ったことをもう忘れてしまったネ?」
「た、確かにひどい目に遭ったけれど……でも、でも……」

そこまで言ってターニャンから視線を逸らし、ぼそっとサイニャンは誰にも聞こえない声で呟いた。
「でもそれだって、姉さんの喧嘩っ早さが原因だったんじゃないかな……」
サイニャンの呟きは、ターニャンには聞こえなかった。何故なら、城壁の覗き窓からユイットが顔を出し、ターニャンに問いかけたからだ。
「お久しぶりね、ターニャン、サイニャン。“ご神体”は見付かった? ひどい目って、何があったの?」
「なあ~にい~がああ~?」

ユイットの何気ない質問に、ターニャンの目尻がつり上がる。
「良くもそんなコトが言えたネ! あたしたちが! あたしたちがどれだけ苦労したか、教えてやりたいネ!」
「な、な、なんの話よっ?」

ユイットの記憶では、以前に出会った時の二人は“桃源郷”シャイファンから盗み出されたという“ご神体”を探す旅をしていたはずだった。
同行した期間はほんの数日。その途中で得ることが出来た“ご神体”の噂を確かめるべく。ターニャンたちはユイットたちとは別の方向へと進んだのだった。
「おかげで……おかげで死ぬかと思ったネ! 熱いし狭いし臭いしかゆいし……思い出すだけであああああ!」
「……ほとんどのことは、警戒一つしないで突っ込んだターニャンの自業自得だと思う」

ターニャンが大声で騒ぐ背後で、ぼそぼそと小声のサイニャン。
「と、とにかく……大変な目に遭ったってことは、なんとなく判ったけど……それで、どうして欲しいっていうのよ?」
びしっ! と指を突きつけて、ターニャンは声も高らかに宣言した。
「ユイット! アンタたちを叩きのめさなくてはあたしたちの気が済まないネ! 勝負するネ!」
「……へ?」

予想外の言葉に、ぽかんとするユイット。視線をサーニャンに向けると、非常に申し訳なさそうな顔をする。
「ちょ、ちょっと、勝負って、どーしてそういう話になるのよ?」
「うるさいうるさいうるさいっ! あたしの足元に這いつくばらせて、済まなかったという言葉を聞かされるまで、あたしたちの怒りは収まらないネ!」
「はぁ……なんでそんな話になっちゃうのよ……」

天を仰いでため息をついたユイットが、再び視線を地上へと向ける。その頃には彼女の表情は、すっかり覚悟を決めたものになっていた。
「仕方ないわ、そこまで言うなら、やってやろうじゃないの……ただし!」
ユイットが天高く片手を振り上げ、ぱちんと指を鳴らす。
「ガオオォォン!」
雄叫びと共に、ユイットの背後に控えていた人影が前に出て、地上目掛けて高層から飛び降りた!
「あなたたちの相手をするのは、あたしじゃなくて……このヴァンテよ!」
「ちょ、お、降りてくるネ! じ、自分で戦えっ!」

予想外の展開に慌てるターニャンに、済ました顔でユイットが応える。
「ヴァンテはあたしのお母さんが作ったクロックワーク・オートマトン。つまり、ヴァンテが戦うのならあたしが戦うのと一緒! さあ、ヴァンテ、やっちゃいなさい! あの二人の頭を冷やしてやるのよっ!」
「ガオン!」

鋼の両腕を振り上げて、ヴァンテがターニャンとサイニャンを威嚇する。
それに応じるように不敵に笑うと、ターニャンは独特の構えを見せて言った。
「ふふん、このカラクリ人形を叩きのめしたら、次はお前の番ネ! サイニャン、ぼーっとしてないで、行くネ!」
「え、あ、う、うん」

ターニャンに呼びつけられ、どこか不本意さを残したままの表情で、サイニャンも構える。
「二人で一つ! 双龍陣の威力、じっくりと見るがいいネ!」
「やっぱり、どう考えても戦う必要は無いと思うんだけど……」
「うるさいっ! 古いことわざにも言うネ、『乗りかかった船』!」
「それ、使い方違う……」
「サイニャン、よそ見してる暇無いネ! ほら、来るよっ!」
「え……ひゃあ!」

サイニャンの一瞬の油断を突くように、ヴァンテは常識を遙かに超えたスピードで突進して来る!
「はあっ!」
ターニャンがサイニャンと繋がった紐を引き、自分の方へと引き寄せたおかげで、ヴァンテの拳はサイニャンの目の前をかすめるに留まった。
「ええい、サイニャン、こっちも本気を出さないと危ないネ!」
「……今までだって、本気だったクセに」
「い、今まで以上の本気という意味ネ! ほら、行くネ!」
「う、うん……」

そう言ってターニャンがサイニャンの両脚を脇に抱えて持ち上げる。再びヴァンテを睨んだその表情は、勝利の自信に満ち溢れていた。
「これぞ、双龍陣奥義!」
「ひ、飛龍旋乱っ……!」
「でえええやあああああっ!」

ぶんっ!
気合と共に、ターニャンがサイニャンの身体を思い切り振り回し、ヴァンテを襲った!
「な、なんて……なに?」
あまりの光景に呆然とするユイット。
だが、飛竜旋乱はただの捨て身技ではない。
振り回されているサイニャンが得意の方術を駆使することで、二人の攻撃力は数倍、いやさ数十倍に跳ね上がるのだ。
「ガオオオオン!」
鋼の両腕を交差させ、ターニャンたちの攻撃を受け止めるヴァンテ。
だが、踏みしめたその両脚が地面に溝を穿って後ずさるほどに、二人の攻撃は重く、強い。
「ぬああああ!」
「ひゃうううう!」

雄叫びを上げてサイニャンを振り回すターニャン。悲鳴のような声を上げてヴァンテにその身をぶつけるサイニャン。
ヴァンテの全身が軋み、限界を訴える。
だが、明らかな劣勢にあるように見える状況で、ユイットはにやりと不敵に笑みを浮かべたのだった。
「ヴァンテ、今!」
指差し、号令する。
「ガオオオオオオオオンッ!」
ひときわ高い咆吼を上げて、ヴァンテが両手を広げ、そして、サイニャンを、彼女を持ったターニャンを、同時に抱え込む。
「ひゃんっ?」
「な、なにっ?」
「ヴァンテ、いっけええええ!」
「ガオオオオン!」

ターニャンとサイニャンをまとめて放り投げるヴァンテ。
「ひゃああああ!」
「うわああああ!」

二人は悲鳴を上げながら宙を舞い、そして門の脇の濠に叩き込まれる。
ばっしゃあ~ん! と、盛大な水しぶきを上げて落下した二人。幸いなことに水は半ば枯れていて、腰のあたりまでの深さしかないようだった。
「さ、サイニャン! 早くどくネ!」
「……ちょ、ちょっと、押さないでよ姉さん……!」

投げられる際におかしな格好で絡み合ってしまったらしく、なかなか立ち上がれない二人。
その様子を笑いながら、ユイットが叫んだ。
「逃げられはしないわよっ! このあたしが作った、クロイツ城防衛システムの威力を見なさいっ!」
その声と共に、ユイットがなにやら装置を作動させる。
「な……ななっ!」
「わわわ……わわっ!」

まとめて身体を持ち上げられ、ターニャンとサイニャンがお互いを抱き合いながら悲鳴を上げた。
濠の底には太いロープで編まれた罠が仕込まれており、それが二人を絡め取り、高く持ち上げたのだ。


「こ、このっ……あうう、動けないネっ……!」
「だから……落ち着いてって言ったのに……」
「このあたし、“練金軍師”ユイットに頭脳で勝とうなんて、百年早いのよっ!」

ぼやく二人を眼下に見下ろしながら、ユイットは得意げに言ったのだった。
「確かにまともに戦ったらあんた達の方がヴァンテより強いよ。でも、あんた達の弱点は二人が首輪で繋がっていること、そしてその真っ直ぐな性格よ。……どこかの誰かさんと同じね」




「……で、ずっとこのままなのか、ユイット?」
訪問者を捕らえたと聞かされてやってきたアンネロッテが、ずぶ濡れのままで吊られている二人を見て、呆れた様子で尋ねた。
「この城の防備がきちんと働いていることを、お兄ちゃんに見せなくちゃいけないもん」
「それはそうかもしれないが……だが、いつまでも宙づりというのは……すぐに助けてあげてくれ」
「ううう、アンネロッテ! あたしたちは、お前たちに騙されたこと、まだ許してないネ! この罠を解いたら、もう一度勝負ネ!」
「……もう一度って……完全に負けてると思うけど……それより、あんまり暴れると……苦しい……」

じたばたと暴れるターニャンの言葉に、アンネロッテは首を傾げた。
「騙された? 一体それは……」
そうしてようやく、アンネロッテたちはターニャンたちの誤解の理由を知ることとなったのだった。

- つづく -
ストーリーテキスト:松智洋、イラスト:えぃわ

 
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